宮大工と歩く奈良の古寺 (文春新書)

語り手の小川三夫さんは、法隆寺最後の宮大工・西岡常一棟梁に入門し、唯一の内弟子となり、薬師寺金堂、西塔の再建では副棟梁を務めた方です。奈良の多くの古寺を修復し、建立してきた小川さんが語る内容を塩野米松さんが聞き書きした本でした。実際に多くの建造物と対峙してきた経験が語る内容の深さを感じさせるもので、宮大工の棟梁の言葉は全ての仕事の奥儀のような趣が伝わってきました。知識ではなく感じ取ることの大切さを師匠の西岡常一さんから学ばれたことが「はじめに」で書かれていました。本書の構成を述べますと、最初にその寺院のある地図のイラストがあり、その寺院の歴史や特徴が記されてあり、交通アクセスや主な建造物の写真が収められています。法隆寺管長や薬師寺管主との対談も掲載してあり、歴史学者や建築学者がとらえる対象物とは視点が違うのが良さでしょう。塔の構造でもそうですが、それぞれの木組みの技の冴えが今日まで建物を保持出来た理由でしょうし、使われている材質や道具など、近代建築工法とは違うノウハウが伝承してきたことにより、しっかりとした建造物が現代でも建てられるわけで、その奥儀を知ることができる本でもありました。ほとんどの寺院は訪れてきましたが、生駒にある長弓寺を不覚にも知りませんでした。鎌倉時代の建築で国宝の指定を受けているとのことでした。何時の日にかこの名刹を訪れる日を楽しみにしたいと思っています。本書が取り上げた寺院です。第１章斑鳩の里（法隆寺、法輪寺、法起寺）第２章西ノ京周辺（薬師寺、唐招提寺）第３章奈良公園周辺（東大寺、興福寺、元興寺、十輪院）第４章山の寺（室生寺）第５章北部地域（秋篠寺、長弓寺）